びび子の日記…

人生半ばで獣医師になった人間が、仕事のこと、将来のこと、愛猫のこと、日常のことなどを綴ってみました。

犬のストレスサイン

 犬がストレスを感じている徴候(ストレスサイン)については、さまざまなところで語られているので、ある程度はみなさんもご存じかと思われます。

 例えば、震える、体をかたくする、尻尾を下げる、さらに下げた尻尾を後ろ足の間に巻き込むなどは、恐怖や不安を感じた時に見られる一般的なストレス反応です。

 さらに、ストレスを感じることで生じる葛藤行動として、あくびをする、体を舐める、体を掻く、舌を出してハァハァと呼吸をする(パンティング)、舌舐めずりをする、体をブルブルと振る、同じ場所を行ったり来たりする(長時間ケージの中に入りっぱなしの状態などの時に見られることが多い)…などが挙げられます。

 行動上のサインだけではなく、下痢をする、嘔吐をする、食欲不振になる、食欲が異常に増す、フケが増える、毛が抜ける、なども重要なストレスサインです。

 

 このようなサインに気づいてあげられていますか?

 そして、気付いても、その後すぐにおさまったりすると、ついそのままにしていませんか?「いつものことだから…」などと思っていませんか?

 

 もちろん犬それぞれですから、それで済んでしまうこともあります。しかし、ちょっとしたストレスサインを見逃した、もしくは、気付いてはいたけどこのくらいなら大丈夫だと思ってやり過ごしてしまったことで、慢性的なストレス反応をもたらしてしまう可能性があります。

 ストレス状態が慢性的に続くと、犬の健康に深刻な影響を与えてしまうかもしれません。また、行動面においても、日常生活に支障が及ぶほどの問題行動に発展するかもしれないのです。

 毎回必死にストレスサインを出しているのに、全然わかってもらえないことを悟った犬は、時に攻撃行動を示すことがあります。最初は、鼻にしわを寄せたり、唸ったり、咬む真似をしたりといったパターンが多いかもしれません。この時、言葉で伝えることができない犬は、「やめて」というサインを送っているのです。飼い主さんの中には、「唸ったからといってやめてしまったら、犬になめられてしまう」と思い、無理矢理拭き続けている方が結構いらっしゃいます。

 そして、唸ってもわかってもらえなければ、最終手段として「咬む」という行動を起こすかもしれません。「咬む」ことでやめてもらえることがわかった犬は、それが報酬となって、他の嫌なことに対しても、「咬む」行動を取り入れるようになってきます

 

 こんなことがありました。

 ある飼い主さんが携帯電話の画面を拭くためにティッシュペーパーを手にした瞬間、近くで休んでいた犬が突然その手に咬みついてきたのです。飼い主さんは、いつも白いウェットティッシュで、嫌がる犬の足やお尻を拭いていたのですが、ある日とうとう「やめてー」と咬むようになってしまいました。それから足拭きは中止していたのですが、ウェットティッシュはもちろん、タオルやディッシュペーパーなどにも反応するようになってしまったのです。

 

 攻撃行動はあくまでも一例です。他にも、トイレ以外の場所でマーキングをしたり、分離不安(飼い主がいない時だけ認められる吠え、破壊行動、不適切な排泄といった行動学的な不安徴候や、嘔吐、下痢、震えなどといった生理学的症状のことを言います)になったりすることもあります。

 また、自分の足先や体を舐め続けたり(その結果皮膚炎になることもあります)、自分の尻尾を追いかけてぐるぐる回ったり、出血するほど尾を噛んでしまうこともあります(これらは一般的に常同障害とよばれています)。もちろん、これらはストレスだけが原因ではない可能性もありますので、獣医師の診察が必要になるケースもあります。

 

 ほんの小さなストレスサインに気づいてあげられるのは、一緒に生活をしている飼い主さんだけです。どうか見逃さないであげてくださいね。