びび子の日記…

人生半ばで獣医師になった人間が、仕事のこと、将来のこと、愛猫のこと、日常のことなどを綴ってみました。

獣医師とトレーナー

 「獣医師の行動治療って何? トレーナーさんと何が違うの?」

 そう思われる方がほとんどかもしれない。

 犬や猫の行動治療は比較的新しい分野なので、知らない人は結構多い。獣医師の間でも、最近ようやく知られるようになってきたとはいえ、具体的にどんなことをするのかは知らないという獣医師はまだまだいるというのが現状。

 

 犬や猫の問題行動に取り組むという意味では、トレーナーさんも獣医師も根本は同じだけど、獣医師の場合は、飼い主さんの主訴である問題行動を「診断」し、「治療方針」を決めるという、内科や外科の病気を診る時と基本的には同じ流れを取る。

 まず、犬や猫の問題行動の相談を受けた際、獣医師は、その背景に身体的な疾患がないかどうかを考える。必要に応じて、身体検査、血液検査、尿検査、便検査、ホルモン検査、レントゲン検査、超音波検査、MRI検査、脳波測定検査などを行うことがある。

 例えば、脳神経系に何か障害があると、その子の意思とは無関係に、突如として攻撃的になることがある。攻撃の対象は、人間の場合もあるし、自分の体(尻尾や足など)の場合もある。物が対象になることだってある。そういう時には、基本の検査の他に、頭部のMRI検査や脳波測定検査などが選択されることがある。

 問題行動が、純粋に行動だけの問題なのか、それとも身体的疾患が原因となっているのか、その見極めは今後の治療方針を決める上でもとても大切!原因になっているかもしれない疾患を無視して、行動療法や環境整備だけを行っても、根本が解決しなければ、問題行動を改善するのはちょっと難しい・・・。なので、根本となる疾患が見つかった場合には、まずはそちらの治療を優先するのだ。

 でも、身体的疾患だけが問題行動の原因ではないことの方が、実は少なくない。

 最初は身体的疾患のために問題行動が起きていたのかもしれないが、それが続けられるうちに学習されて、疾患とは関係なく同じような問題行動が起きてしまうこともある。例えば、皮膚の病気からくる痒さのために、体を掻く行為を繰り返していた犬が、体を掻くと飼い主が心配してかまってくれることを学習すると、飼い主の関心を引くために体を掻くようになる、といったケースがある。なので、身体的疾患の治療を行うだけでは、問題行動そのものは改善しない可能性も出てくるので、必ず両方の面からアプローチしていくことが必要となる。

 

 そして、獣医師による行動治療の一つの方法として、薬を使うことがある。

 例えば、生まれつき不安気質を持っているような子は、トレーニングや環境を改善するだけでは、どうしても解決できない部分も出てきてしまう。そんなとき、不安を軽減する作用のある薬を使ってみることを提案することがある。不安には、脳内物質であるセロトニンが関係していると言われているので、そのセロトニンの量を調節するような薬の力をかりてみようというものだ。

 もちろん、薬だけ処方して終わり・・・ではない!薬の服用と併行して、行動療法や環境改善を行ったり、その後のフォローアップをしていくことは絶対に不可欠!

 

 …と、何だか獣医師とトレーナーさんの違いを強調した感じになってしまったけど、私が言いたかったのは、お互いに対立するのではなく、協力し合える関係になったらいいなということ。ヒトに例えていうならば、トレーナーさんは「学校の先生」で、獣医師は「校医さん」といった感じかもしれない。学校の先生と校医さんは、子供たちが身体的にも精神的にも健やかであるために、情報を交換し合い、お互いに協力していく関係だと思うが、トレーナーさんと獣医師の関係も似てるんじゃないかと思う。

 獣医師も、しつけやトレーニングの知識はあっても、やっぱり技術や経験などの面ではトレーナーさんにはかなわないと思う。 実際に、行動治療を行う上で、トレーナーさんと協力をすれば、もっとスムースに改善するのにな・・・と感じることがある。例えば、散歩ですれ違う犬に攻撃的に吠えたり、突進したりするため、散歩ができないという悩みがある飼い主さんに対して、獣医師が治療プログラムを立て、実際に外で行う散歩のトレーニングなどをトレーナーさんが行う、といった形で進められたら、飼い主さんも安心なんじゃないかなぁ・・・。

 これからは、獣医師とトレーナーさんがお互いに上手に役割分担をして、二人三脚で行動治療に取り組むような形があってもいいのではないかな~と思っている。